第3回 平山郁夫氏Interview

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第3回 平山郁夫氏 × 泉美智子

画家。東京芸術大学学長。1930年広島生まれ。
1998年文化勲章受章。

創作活動の世界的評価に加え、 ユネスコ親善大使を務めるなど多くの社会貢献活動でも知られる。

「技術だけではなく、教養も必要」

先生はいろいろな肩書きをお持ちですが、日ごろはどんな生活を送っておられるのでしょうか。

旅行するとき以外は、どんなことがあっても、毎日筆を離さないですね。 国際交流にも力を入れていますから、1年に平均して7回くらい海外出張しています。 加えて、政府の文化関係の審議会。三本立てですね。現役の間は、日曜も祝日もなしですよ、それが私の生活です。 ただいつも作品のことを考えながら動いてます。自分の集中力を持続させつつ、「それっ!」というときには、 すぐに没頭できるよう心がけています。

平成17年1月から、京都を描いた平成の洛中洛外図新作約40点の展覧会をやりますし、 平成19年には竹橋の近代美術館で、77歳の大回顧展をやりますから、実際、息つく暇もない有様ですね。

画家の道に進まれたきっかけは何だったのかを是非伺いたいです。

子供の頃から、絵は、自分の思うまま自由自在に描けるのがおもしろくて描いていました。 これは今も同じ。集中できる、無心になれるってことです。

常に芸術に没頭されている先生は、
芸大の入学式で新入生にどんなお話をされるのですか?

新入生はだれもが喜んでいますからねえ。 自分の才能を磨く、あるいは大成するにはどうしたらいいのかという 心構えはちゃんと持っていますよね。でも、技術的なものだけではだめで、高い教養、幅の広い教養、 たとえば人類の歴史、世界の中の日本人であることの意味など、 基礎的なことをしっかりやらないとだめだということを伝えています。

「人類の世界遺産を」

私はFP(フィナンシャルプランナー)の立場で、子供たちに経済やお金の話をしています。そこで伺いたいのですが、普通モノの値段は市場で需給が均衡するように決まります。ところが、絵や彫刻などは「ひとつしかないもの」ですよね。いったい、芸術作品の価値はどのようにして決まるのですか。

古典になった作品は、歴史的な価値がありますよね、 時代を象徴する作品という意味で。これは天平時代の作品だとか、 これは鎌倉時代の作品だとかいったふうにね。 ただ、いいものが残されているにしても、 失われたものがたくさんありますよね。

作り手も守り手も一緒になって残さないといけない。 これが人類の世界遺産という価値になるのです。

芸術を学ぶ若い人も、そういうことをわきまえながら学ぶ必要があるということですか?

創る側は、初めから世界遺産や国宝にしようなどと意気込んだりはしないわけです。 実際、子どもの頃は、皆が同じような環境で育っていく。 ところが、ある子供は芸術の才能がある、スポーツの才能があるといった具合に、 おびただしい数のDNAの組み合わせの結果として、自分の潜在的な才能ができあがるわけです。

しかしいくら才能があっても、 宝石の原石と同じで見た目には普通の石となんら変わらないわけですよ。 ですから、これは宝石の原石だと見極めた指導者が、その子に勉強させたり訓練したりして、 あるいは自らの努力により磨きをかければ、石は光り輝く宝石になるのです。 普通の石を磨いても、きれいにはなるけれども光らない。才能の多様性をどう見分けていくかが大切です。

「倫理観をもって生きることが大切」

自分で自分自身をわきまえる必要があると?

ヘレン・ケラーみたいに、目も見えない、耳も聞こえない、口も利けなくても、 努力次第ですばらしい人間性が生まれることもありますからね。 やらないからできないという部分も大きい。 普通の生活をして気楽に遊んでいては、いくら才能があっても伸びない。 そういうことを、子供が自覚するか、親なり教師なりが自覚させられるか否かで、 成人してから大きな差が出るわけですよ。

優れた才能を持っていても 努力を怠ったために才能を浪費するという場合もありますよね。 本人の資質と、ナビゲートの仕方の適・不適があるのではないでしょうか。

先生はいろいろな意味でものごとをお考えになりながら、絵という形で世にメッセージを送られていますね。

絵は、やっぱり美しくなきゃいけない。私は広島で被爆という大変な経験をしたのですが、 どんなに過酷で凄惨な定めにでも、前向きに建設的に立ち向かっていかねばなりません。 音楽や絵は戦力にはならないかもしれませんが、悲しみを癒す音楽や、元気づけるような音楽、絶望的なときでも気持ちが やすらぐような優しい音楽を聴くと心が暖まり力が沸く。

絵もそうですね、気持ちの悪い告発的な絵より、 ただ甘いというだけではなく、包み込むような美しさと優しさを、過酷な現実のなかに見出して、それを明日につなげていく絵。 それが芸術だと思います。

今の子供たちに対するメッセージを。

今いろいろな社会問題が起きています。 モノや便利さを求めるほうへ、言い替えれば、科学技術のほうに、 偏りすぎているんですよ。科学技術に精神性を与えるのが文化なのです。 人間性のない科学技術は有害無益です。そうした科学技術一辺倒が、 今の日本をおかしくしているのではないでしょうかね。

個人主義というのは人間主義なのですよ。本来なら、自己責任を持つ、 他人に迷惑をかけないという倫理観があって初めて個人主義は健全に機能する。 これがモノとココロの本来の関わりのはずなのに、今はモノとカネに偏りすぎている。 カネを使う人の生き方がカネの値打ちを決めるわけですね。 私利私欲のためにカネを儲けるというのは、金の亡者以外の何者でもありません。

※ このインタビュー記事は、リロクラブの情報誌「F・U・N」に連載されたものに加筆・修正したものです。