第4回 寺脇研氏Interview

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第4回 寺脇研氏 × 泉美智子

1952年福岡県生まれ。

1975年文部省入省、初等中等教育局職業教育課長・広島県教育長・高等教育局医学教育課長・生涯学習局生涯学習振興課長、大臣官房政策課長を経て、 大臣官房審議官。2002年より文化庁文化部長

「寺脇研(てらわきけん)氏を訪ねて」

文部科学省の推進する「ゆとり教育」は豊かさをテーマにしています。私もお金を通して、真の豊かさとは何か、豊かな社会ってなんだろうということを考えてもらおうと、子どものための金銭教育を進めていますが、浸透させる難しさを味わっています。教育改革にも同様の難しさがあると思いますが、その難しさの原因はどこにあるのでしょう?

こう言うと身も蓋もないんですが、大人のせいですよね。 子どもたちは、こうしてみようって言ったら、 素直についていこうと思うんです。「知育」の偏重に対して、 心や身体の問題が言われ出して、それに合わせて教育を変えようとすると、 今度は「じゃあ、学力はどうなるの?」って話がでてくる。 こういう堂堂巡りをやっているんですね。

大人の側が決断しなきゃいけないのに、 その決断を先送りしてきているわけです。 私の話を子どもと大人にすると、子どもの方は素直に聞くわけですよ。 大人の方は、「いいや、そうはいっても…」とね。 大人が子どもと向き合うというか、未来と向き合うかどうかなんですよ。

大人の問題と言えば、よく親子の対話がないと言われていますが、子どもとのコミュニケーションが難しいと考えている方は多いのではないでしょうか。

そうですね。よく難しいって言うけど、簡単なんですよね。 親はああしろこうしろと言うんだけど、 まず「私はこう思う」と意見を言うことが大切なんです。 対話ってそういうことでしょ。それを言わないで、 まずお前はどうだこうだってことばかり言ってるから難しくなる。

子どもの茶髪が嫌だったら、「茶髪をやめろ」じゃなくて、 「お母さんは、茶髪は嫌だ」と自分の意見を言うべきなんです。 そうすれば、子どもも意見を言うんです。 「お母さんが嫌でも、彼女がいいっていうから茶髪がいい」って言われれば、 「まあそう、彼女の方が上なのね」ってことになるかもしれないけど(笑)

寺脇さんご自身の学生時代はどういう感じだったのでしょう。

自分の頭で考える「嫌な子」でした(笑)、大人から見ればね。 例えば、先生が「有名大学入るために頑張れ」っていえば、 「なんで頑張んなきゃいけないんですか」って。 「有名大学に入れば、いろいろいいことがある」と言われれば、 「どういういいことがあるんですか」って(笑)。 そう言われたときに、「なんだかわからないけど、先生の言う通りです」 って言うようじゃおかしいじゃないですか。

親とか先生のいうことを常に疑ってかかるとか反発していたわけじゃなくて、 自分で考えて、なるほどと思ったら、 それは、言う通りにしてましたが、自分で考えもしないで 親が言うからとか先生が言うから、っていうのはおかしいぞって。

そんな子ども時代だった寺脇さんが、なぜ現在のお仕事を選ばれたのか、きっかけを教えてください。

世の中の人の考え方を変えられるような仕事をしたいと思って。考え方を変えるっていうと大げさですけど、 大人が一方的に振舞わない社会をつくりたかったんです。そのためには、教育か文化だなと。

文部科学省に入られた時のそんなお気持ちからして、現在どうですか?

いやあ、思った通りの仕事ができてうれしいですね。 子どもたちに「いつが一番幸せでしたか?」って聞かれて、 いつも言うんです。「でしたじゃなくて、今だよって」。

なるほど。それはさておき「喪失の喪失」の時代と言われる昨今ですが、私の親子セミナーで、子どもたちに「今、欲しいものは何?と尋ねると、「ない」か「わからない」と言う子が多いのに驚きます。これも自分で考えられないということと関連するような気がします。

最近の子どもは、物があふれてて、 「ゲームが欲しい」なんてことも思わなくなっているけれど、 欲しくてもかなわないものが実はたくさんあるんですよ。

「この川をきれいにしたい」とかね。 そういう新しいテーマを与えていかなければいけないのです。 つまり、「この川はすごく汚いね。 きれいな川とどっちが気持ちいい?」と問いかければ、 子どもたちはみんな「きれいな川のほうがいい」と答えてきます。 「じゃあ、それは今ここにないものだよね。 それを手に入れるためにはどうすればいいの」とみなで考える。 教育改革で進めている総合学習っていうのは、そういう取り組みなんですよ。

寺脇さんは生涯学習にもかかわって来られましたよね。大人になっても学び続けるというのは、素晴らしいことだと思います。

その通りです。生涯学習で大切なのは、学び続けるということですよね。 学ぶということは、本来、絶対的な基準があるものじゃなくて、 自分自身で評価すべき問題なんですよ。昨日より今日がよくなる、 今日より明日がよくなるのが学びであって、人より上になることが学びじゃない。 だから、そういう意味で、大人は、子どもよりも、学びの原点に戻れるわけです。 本当に知りたいこと、本当にやってみたいことができるんです。

好奇心を持ち続けることは何より大切なことですね。

今、本当に、高齢者で生き生きしてる人、特に生き生き、スーパー生き生きしてる人って、 大概、子どもの頃から何かをやり続けている人なんですよ。 子どもの頃から好奇心を全部殺してきてる人に、さあ好奇心を持ちましょうと言ったってだめです。 だからこそね、子どもの頃に学力一辺倒でいいのかってことを問わなきゃいけないんですよ。

※ このインタビュー記事は、リロクラブの情報誌「F・U・N」に連載されたものに加筆・修正したものです。